(Long版) ぼっち・ざ・ろっく!劇中歌「星座になれたら」を採譜して細かく語ってみた
「星座になれたら」LIVE at 秀華祭 を採譜してみました。
ぼざろにハマるきっかけになった曲……
あとから何度もリフレインしながらメロとコードが気になったので、ギター弾けないなりに(2年ぶりに押し入れから出して)頑張ってみました。
私が楽曲の構成(コード進行やリズムなど)などの感想を交えているので長いです。
純粋に、物語的に解釈するときの材料になるかなと思ったところについて抜粋したLite版があるので、この記事の途中でめげそうだったらこっちを見てください……↓
- イントロ (0:00)
- Aメロ(0:21)
- Bメロ(0:38)
- サビ(0:54)
- 喜多ちゃんのアドリブ(1:25)
- ぼっちのアドリブ(1:38)
- ブリッジ(1:57)
- ラスサビ(2:17)
- アウトロ(2:49)
- 余談
イントロ (0:00)
まず注目してほしいのはこの曲のテンポ。 時計(120)よりも少し早く、16分音符の粒立ちの良さが際立つ、BPM122~123という絶妙なチョイス。4や6の倍数どころか、整数にすらならないっていうのが、ある種のライブ感を漂わせている。
アナログのメトロノームで、120周りで目盛りがあるのは108, 112, 116, 120, 126, 132。もはやデジタルのメトロノーム(クリック)が主流だが、クラシック路線ではないということの表れかも。
1小節目の頭に全員でジャン!と一発合わせたと思ったらリョウのスラップ*1が始まる……それに被せるようにぼっちのフレーズが追いかける。
曲のスケールについて
というか初っ端からD♭M7である。そのためにリョウと喜多ちゃんは半音下げチューニングをしているのだ。
ギターのレギュラーチューニングはE,A,D,G,B,E、アニメやで抑えているフレットやたまに出る開放弦の音からして、全て半音低いE♭,A♭,D♭,G♭,B♭,E♭にチューニングを変えている。採譜をして思ったのが、この曲を弾くときにチューニングを全部の弦で変えなきゃいけないのがなかなか面倒くさい……つまり練習するのも面倒くさい。
ちなみにLIVE-恒星-ではベースは持ち替え、ギターはレギュラーチューニングでしたね。レギュラーチューニングで弾きたいという方は「かずきのギターチャンネル」様のこちらとかが参考になるかと。↓
【ぼっち・ざ・ろっく】「星座になれたら」の喜多ちゃんパートのギターをフルで徹底解説!【TAB譜】 - YouTube
初心者(のはず)の喜多ちゃんがいるのに、音数の多いアッパーストラクチャ*2を強行するリョウと山田リョウへののこだわりが凄い……
この垢抜けないキラキラ感のあるA♭メジャースケールのアッパーストラクチャこそが結束バンドのつくる"おしゃれさ"の世界観なんだろうな……
そして半音降下するベースとリズムギター。ここのコードがCm7→Bm7→B♭m7と単純に降りているようで、ぼっちはC→A♭→B♭、すなわち一瞬入る音はBm7(13)である。
その裏で虹夏がやっているのはクラッシュのチョークからのハイハットの16分オープン……シブい。けどこれが迫力あってかっこいいんだよなぁ……
アッパーストラクチャがなぞるメロディの爽快感と、コード進行の緻密さをあえてぶつけて影を作る。この瞬間に「星座になれたら」という楽曲の方向性が決まったと言っても過言ではない。
冒頭のキタ~ン
2小節目で一瞬のブレイクが入ったと思ったら突然の「キタ~ン」。
この箇所は先人の動画やTAB譜を見る限り、ハーモニクス派と普通に押さえているよ派がいた。私はずっとこの不思議な運指の形と、目立つD♭の音が気になっていた。
絵を見てもやっぱり小指の存在が目立つ。
おそらくは、2-5弦の7フレット(3倍ハーモニクス)に合わせて、1弦10フレットでD♭を弾く形。
するとコードはリョウのベースと合わせてE♭sus4(7,9)。すごくオシャレ。
しかしこれをド頭で弾くのはなかなかに緊張する。喜多ちゃんはこの部分だけでも相当練習したんだろうな……
そんでもってリョウのスラップによる16ビートのノリが見えたあとに虹夏が叩くのは三連符である。これがさっきのキタ~ンのあとに来るもんだから、一気に雰囲気が引き締まる。
このたった2小節の間に、4人全員の見せ場を作って畳み掛ける感じがとても好き。
そしてまた全員で付点のリズムを刻み、「キタ~ン」を経由して虹夏の三連符という流れになっており、このたった2小節の間に、4人全員の見せ場を作って畳み掛けている。
3小節目からは虹夏の16ビートで再スタートされたイントロのフレーズ。メロディアスなスラップ*3とそれに呼応する虹夏のドラム。2拍目の頭のスネアがベースの休符に入り込む感じ、リョ虹の呼吸を感じる……
「星座になれたら」において、虹夏が刻む16ビートのスネアの位置が良く裏裏に入るけど、2つ打ちをせずにシングルストロークで叩いているの、"音がでけー"のが気に入った虹夏らしい。
5小節目から入ってくるのはぼっちのワウペダル!*4 虹夏の16ビートの下を支える4分音符と同じタイミングで踏まれていて、今度はぼ虹の呼吸を感じる……
わざわざハイハットのフットを記入したのは、裏拍部分で少しペダルが緩んだ音が出るからである。打ち込みでは出せないニュアンスだけど、これがまたいいリズム感を作り出す。
8小節目で突然現れるのはAM7! ルート的には半音下降の続きなんだけど、全体的に音程が上に行っているので、独特の浮遊感が生まれる。
喜多ちゃんのギターもバレーコード*5で半音降りるのではなく、6フレットに上がって5弦ミュート。こういうFやBコード系の単純な移動だけじゃないコードを織り交ぜてくるのは面白いし、勉強になる。
私の共感覚ではA♭のアッパーストラクチャの色がオレンジ~紫のグラデーションを感じるので、この後の歌詞「もうすぐ時計は6時」というのがすごくマッチしている。
また、この2小節の間に、ここまでのシンコペーション優位なフレーズからA♭M7の解決に合わせてリズム隊のノリが落ち着いているのがいい。
そしてこの上に乗っかるのが6連のハンマリングをする後藤。中指と薬指の動きから察するにきっとテクニシャン……
このイントロだけでも、「星座になれたら」には喜多ちゃんの頑張りとリョウの「コレもいけるか」ってラインのせめぎあいがたくさん見受けられて、バンド練習後のリョウ喜多レッスンの内容の妄想が膨らむ。
私が一押しなのは、後藤の最後の音がE♭になっていて、この後9th(E♭)で歌い出しをする喜多ちゃんのエスコートを感じるところ。
Aメロ(0:21)
後藤さんにエスコートされた、D♭M9の9thノート、E♭からの歌いだし。それを支えるのは裏裏の効いたリョ虹の16ビート。ここの虹夏のバスドラが裏裏で入るのがカッコいい。
14小節目で喜多ちゃんが指板を押さえている、2弦12フレットを一瞬小指で押さえるFm(11)が私に刺さった……
そして聴き逃がせ無いのが喜多ちゃんのスライド。後藤が曲中で多用する、スライドを使ったフレーズを喜多ちゃんが弾くってのが熱い。こういう技も後藤さんに教えてもらって、いっぱい練習したんだろうな……
また、15小節目で頭1拍分伸ばすハイハットのオープンや、バスドラと同じタイミングでオープンになるハイハット*6も好き。この曲のドラムをコピーするとなるとハイハットのオープン・クローズが最難関だと思う……
ドラムが同じフレーズ続けないだけでなく、Aメロにおいて奇数小節目のパターンが全部違っているところとか、"音がでけー"だけじゃない、大きくなった虹夏のドラムに対する造詣の深さがうかがえる。
Aメロで歯切れのいいカッティングをしていたぼっちが魅せる、18小節目の3度ハモ・3度下降のフレーズに一気に心奪われる。そしてリョウのベースが弾く8分音符のフレーズは、Aメロを1小節長くするための布石。
Aメロの解決先は1小節伸びたA♭add9。どこにadd9(B♭)が入っているかというと喜多ちゃんのアルペジオ。アッパーストラクチャの5度重ねがきれい……ここの指板が確認できなくてもどかしいけど、5弦開放のA♭を経由してローフレットのコードに移動していると思う。
そして19小節目で、ぼっちのフレーズと喜多ちゃんのアルペジオが合流している! こういうふとした瞬間に合流するフレーズ好き。結束の先触れ。
Bメロ(0:38)
喜多ちゃんの歌とギターがゆったりするところで、せわしなく動くぼっちの歯切れのいい16分のフレーズ。ミュート音的なのにディレイを強くかけていていることも合わさって、星空を見上げたときのキラキラ感が感じ取れる。ちなみにこのフレーズが2番になったときの変化をよりグッと来るものにさせている。
リョウのベースはその裏で2度上昇。このじわじわとせり上がってくる感じ、結束バンドの楽曲で全体的に表されている焦燥感が滲み出る。
虹夏のドラムはAメロと打って変わってハイハットが8分裏になっているけど、バスドラはAメロと同じ。意外とこういう変化を演奏すると難しい。ギター二人が流れるようなフレーズを作る中、リズム隊の二人が16ビートを維持している。
そして「いいや 僕は ずっと一人きりさ」のカギ括弧……! ここは歌詞考察が深まるポイント。なげやりになった「いいや」なのか、全文を否定する「いいや」なのか…… ぼっちの作詞・喜多ちゃん歌唱のどっちに重きをおいても、もしくはこの両方にこだわっても可能性が満ちている。韻踏み・対比・解釈の幅を一気に持ってくるフレーズを編み出す樋口愛さん天才……
ラストのキメ、26小節目のD♭M7→Dm7(-5)の流れがしびれる。鍵盤で弾いていても気持ちよかったのに、指使いの確認で弾いたギターでゾワッと来てしまった。ハーフディミニッシュ*7ってギターだとこう使うのか……
このシーンで竿物3人が同じリズムを刻む中、虹夏のドラムが前に出る。
特に27小節目3拍目、16分遅れて入るスネアとシンバルがカッコいい。いざやろうと思ってもなかなか難しい一打に込められた執念を感じる……
サビ(0:54)
ここからリョウのコーラスが合流。三度下のハモリから四度下のハモリに移動したり結構動く。星座になれたらの下ハモのラインはすごく優しい感じがして好き。
ギターがE♭,B♭,A♭,E♭と4-5度を奏でているのに謎の安心感。
1弦、キレた!!(前半)
そして物語が大きく動く、ぼっちのギターの1弦が切れるシーン。
原作(単行本2巻p62, 3コマ目)ではネックの部分に集中線があり、ナット*8の部分から1弦が切れていたが、アニメではピッキングした位置からに変更されている。芸が細かい。
原作を解釈すると、チューニングが合わない→低くなっている場合はフレットを抑える力を強く、高くなっている場合はブリッジ側に押さえて引っ張りながらチューニングを合わせることで、ナットにかかる負荷が強くなってしまう。特にチューニングで擦れたりなどの負荷が大きいナットの部分から弦が切れてしまう。
一方アニメではフレットを握る際に「ピキッ」という音が聞こえる、2弦のペグも故障している、などの部分は原作を踏襲しつつ、演奏シーン後半の"映え"の演出のために変更されていると思われる。この部分は記事後半で取り上げたいと思う。
31小節目のコード進行と喜多ちゃんの小指
このシーンでなる音を1段にまとめるとこんな感じ。
まずはベース。F→E→E♭→A♭になっているのでこれはわかりやすい。
次にメロディとハモ。F,B♭→B♭,D♭→A♭,C→A♭,C。おや? 最初はFm7(11)でいいけど、次がEdim7?
ここで喜多ちゃんのギターを考察する。弾いてみた動画のほとんどではFm7→Em7→E♭m7→A♭となっており、それに違和感はない。逆に違和感があるのはLIVE映像の方である。→該当箇所(1:00)
……妙に小指の動きが細かくない? 上記のコード進行だったらA♭が出るまでただスライドしていけばよいはず。それでは時系列で1弦の上を動く喜多ちゃんの小指の道筋を読み取っていこう。*9
1拍目: フレットに対する位置は11フレットだが、それ以外の指の形はバレーコードのm7で、小指の位置は人差し指に対して+3フレット。なのでFm7に対してトップにE♭、たしかに聞こえる。
2拍目: 手の形は半音スライド(Em7)。しかしトップにDの音は聞こえない……となるとここはミュートか。ちなみに3弦のDの音は目立たないので、人差し指や薬指でミュートされて、実質的にEmになっていると思う。
3拍目: 2-5弦は引き続き半音下降。しかし、喜多ちゃんの小指に注目してほしい。みょこっとバレーの位置+2を押さえ直している……!! アニメでデフォルメされた部分もあるだろうが、小指の先が画角によって圧縮されているので、人差し指側に向いているので、意図的に9フレットを押さえにいっているように見える。となるとE♭m7+トップのC。たしかに聞こえる。
4拍目: ここでフレットが飛んで5フレットバレーのA♭。小指は4弦7フレットに。
1, 3拍目の小指が押さえる音がいい仕事している……テクいぜ、郁代。
そしてこれらを合わせて導き出されたコード進行は
Fm7(11)→Em(+11,13)*10→E♭m7(11,13)→A♭
極めつけは3拍目の直前、喜多ちゃんがCの直前にシャクリを入れているのはBの音*11。
元は簡単なバッキングだったが、リョウ喜多レッスンの過程で、簡単な進行から、より挑戦的なこだわりを追加していったとも解釈できる。
リョウ喜多レッスンの妄想が捗る……
喜多ちゃんの成長
33小節目辺りで喜多ちゃんがぼっちの異変に気づいて横に向くシーン、ここだけで喜多ちゃんの成長を強く感じる。8話の「あのバンド」のときはそのまま首を回していたので、喉が締まったり、マイクからオフってしまっていた。
しかし、12話「星座になれたら」のときには自分が半歩右前に出て、マイクからオフらないように後藤さんを覗いている。
こういう細かい所作にもこだわりが感じられる……いっぱい見て! →(1:04~)
ちなみに原作では喜多ちゃんが弦が切れたことに気づくカットインが入ります。
34小節目のCm7→Edim7→Fm7も好き。サビ前・サビ終わりのD♭M7→Dm7(-5)→E♭の流れと対になる進行で、寂しさ・優しさ・不安感だけでなく、力強さを表現できるんだ、ディミニッシュとハーフディミニッシュに対する考え方が改まったシーンである。
35小節目は伊地知虹夏のスケベ丼。*12 ラストのキメに向けて、ここはあえて我慢している所が良い。
41小節目の歌詞は「解かないで」である。Cm7にしがみつく-13th(A♭)の姿と非常にマッチしている。回転コードを使えばA♭M9からA♭がルートから転がり落ちたと解釈することもできる……転がるぼっち!?!?!?
42小節目では喜多ちゃんがまっすぐ前を向くカットが入る(1:23)。後藤さんの異変に気づいて、本番中20秒弱の間に巡った喜多ちゃんの思考が、この瞬間に決心に変わっている……
個人的に好きなのがサビのドラムのパターン。基本的に裏拍でハイハットのオープンをしているのだが、2,4拍目の頭にクローズの音が入っていたり、4拍目に「タツツー」と二回打ちしていたり、徹頭徹尾気を抜かないフレーズを叩いているし、作画されている。演奏している比田井さん・モーションを作る平川さん・アニメに描き起こす作画の皆さんの「虹夏のドラム」への解像度が高い……
喜多ちゃんのアドリブ(1:25)
ぼっちが直面したギターの故障に対処できないままソロパートに突入。そこで機転を利かせたのは喜多郁代。この構図はアニメ8話でぼっちが魅せた「あのバンド」冒頭のアドリブにおける演出に対応していると思う。
流れとしては、パワーコードから1,2弦の開放弦を使ったローフレットに移動。急にローフレットに持っていこうと思いつくのはすごい。開放弦の厚みのある音がなることで、会場は喜多ちゃんのギターに視線が移動する。開放弦でエンジンを掛けた喜多ちゃんがオクターブ奏法を使ったアドリブに突入する。
なにげにすごいのがリョウもここで予定(CD版)とは違うフレーズを弾いている。CD版ではパワーコードを弾く喜多ちゃんの分、高い音のアソビを入れたフレーズが多い一方で、喜多ちゃんのアドリブに反応してアソビの少ないベースラインを弾いている。
表に立って場を繋ぎながら、ぼっちを引っ張る喜多ちゃんだけでなく、それを支えるリョウのベースと、冷静に次の判断を待つ虹夏のドラム。三者三様の結束力が光る。
オクターブ奏法を使ってA♭のストロークをする郁代の裏で、48小節目にリョウのベースがハイノートへ動く。ここのベースラインが、CD版のぼっちのソロで演奏されている裏拍ハイノートのフレーズを彷彿とさせる。アドリブに対応して、支えるとこは支え、出るところは出る。流石です……
ソロパートを魅せるためか、シンプルなコード進行が続いていたところに突然現れるG♭。最初はただ驚いていたが、この後の展開のエンジンを踏むコードとしてA♭メジャーの中で鳴る2度下平行移動のG♭以上にふさわしいものはない。*13
このコードのリズムギターが高い音のアルペジオになっているのも、ここまでのオクターブ奏法との切り替えを感じるし、踏み込んだコードの上でより一層の輝きを放っている。
ここでのセリフが「皆に見せてよ 本当は…後藤さんはすごくかっこいいんだってところ!」。まぶしすぎる……!!!
喜多ちゃんの"かっこいい"後藤さんへ寄せる期待と信頼が溢れていて、ここまで上手くなった説得力もちゃんとあるのがいい。
……ここで唸りを上げる後藤さんのギター。
ぼっちのアドリブ(1:38)
ぶっつけ本番のボトルネック奏法でのアドリブ。フレーズを考えるだけでなく、チューニングを合わせながら弾けるのすごい……
いつもの指板の感覚とは異なる位置で押さえなきゃいけないし、文字通りスライドされるので安定感がなくて難しい。それをベンドやビブラートでかっこよくフォローしているのも流石。後藤ひとりがギターを練習してきた3年間に培われた物が発揮されている感じ、とても良い……
そいち様がこのシーンを詳しく説明されていますので、ご一読を……
【あのシーンを語りたい】あの文化祭ライブの回ですが、これが分かるとあのシーンをもっと深く味わえるというのを僕なりに語らせて下さいお願いします
— そいち (@soichi1111) 2023年2月12日
さあ、あの3分間に何が起こっていたのか、見ていこうじゃないか(何者だ)
↓公式動画参照
#ぼっち・ざ・ろっく https://t.co/Q7e5X0vH7i pic.twitter.com/iQIT2nCBVu
1弦、キレた!!(後半)
そして切れた弦がネックから下がって揺れながら、照明を反射して光る。これはアニメーションになったときに映えるように考えられた変更だろう。(喜多ちゃん! 映えですよ! 映え!)
実際にアニメーションにすることを考えると足元にブリッジからぶら下がった弦がきてしまう。それを映そうすると画角を広く取らなければいけない。また、スカートのプリーツもあるので恐らくわかりにくくなるというのもあるのかもしれない。
フィクションとリアルを両方追求することで、説得力と臨場感のある演出が出来上がる。これこそがぼっち・ざ・ろっく!の真骨頂だと思う。
アドリブのラスト、オクターブ奏法にトレモロを合わせるとこんな風になるのかと感動したシーン。G♭の上でなぞるフレーズが気持ちいい……
そうして大波乱のソロパートが幕を閉じる。
ブリッジ(1:57)
このブリッジの構成が素晴らしすぎる……
ソロが終わっても気を抜けないのが結束バンドの楽曲の味である。このブリッジに構成されている音楽的な要素のひとつひとつが素晴らしい。
- リョウの上ハモ
サビでは下ハモをしていたリョウが、このシーンだけ上ハモに移動するのである。水野さんの透き通ったコーラスがキラキラ響いて良い……とても好き。 - ローフレットのバッキング
「星座になれたら」ではリズムギター(とベース)が半音下げチューニングを行っているが、バレーコードを多用しており、実はレギュラーチューニングでも弾けるのでは? と思っていた。
だがここに来てその本性が現れる。基本形はD♭→E♭→Cm→Fmなのだが、ローフレットで開放弦を織り交ぜたバッキングになっているのである。振動する領域の広い弦が太い音を作り出し、先述のハモリが乗っかることで空間全体に音が広がる。これがソロの直後に入るもんだから、音楽の方向として落ち着くのではなくて、より盛り上がる。 - ドラムとベースのリズム
ソロパートで8分音符主体のリズムになっていたが、ここに来て本来の16ビートを再燃させる。ドラムのキックも4つ打ちから裏裏を入れたパターンになっている。 - ライドシンバルを使ったフレーズ
ここで初めてライドシンバルが使用される。しかも裏打ちだけでなく、1,3拍目頭にも入っている。(抜き出すとタタータのリズム)キラキラ感・しっとり感だけでなく、どんな展開が来るのか、次への期待感が高まるフレーズである。 - リードギターの8分音符
ずっと4弦でE♭を鳴らしながら、5弦の音をA♭→G→B♭とするだけである。それだけなんだけど、ものすごく哀愁があってかっこいい(真似しやすいフレーズです)。
ぼっちはこのパターンを繰り返しながら、喜多ちゃんのギター音が隣に来たり、重なったり、また離れたりを繰り返すのが良くないですか……?!?!??!?!!
「何度も出会ってしまうよ」の文字通り、ギターの音の関係が 2度のぶつかり→重なり→離れて→2度→重なる……と後藤と喜多の音が隣に来たり重なったり離れたり……
TAB譜じゃ見えない音符の関係。ここの音にもぼ喜多が詰まってる……
62,66小節目で現れるのが直球のE♭。アッパーストラクチャの進行の中でド直球の3和音に急に集まるのがグッとくる。
69小節目、最後のキメも直球E♭、しかもトップノートが後藤のオクターブE♭。この流れで弾かれる後藤のオクターブ奏法は喜多のアドリブへの意匠返しを感じる。
そして今度こそトゥッティで合わせる虹夏のドラム。これまでキメでド直球の合わせをしてこなかったのがここで活きる。
音とリズムがここで結束する。
ラスサビ(2:17)
全員のキメから一転、ギタボの喜多ちゃんと虹夏だけの時間がやってくる。
ここのギターのミュート5度とか、ぼっちが演奏しててもいいと思うんだけど、アドリブと最高に盛り上がるブリッジを終えたあと、一度深呼吸を入れるという演出を入れるというのが良い。
逆に静かサビでもずっと弾き続ける喜多ちゃんすごい…… セッションとしては、喜多ちゃんのリズムが崩れないようにという配慮なのかもしれない。
そしてここのドラムパターン。こういうとき、「ウンタンウンタカ」を繰り返しても良さそうなところだが、「ウンタンンタタン」と16分音符前に出るリズムも入れている。二人だけになって、ただ静かになるだけじゃない、ここからまた盛り上がっていくためのワクワク感を演出している。
75小節目、ここでリョウのベースが合流。高くポーンと抜けた白玉が暗闇を照らす。喜多ちゃんのミュート音と同じ音域まで来ているところでロングトーンを鳴らすという対比も良い。
ギター二人の対位法
そして77小節目、満を持して後藤ひとりの合流。
喜多ちゃんのハイノートは上に抜けてからA♭まで下降、ぼっちはローフレットのアルペジオからハイノートのオクターブスライドへ…… ……ギター二人の対位法だ!!!!!
ここからぼ喜多のギターが組んず解れつを始める。
これまで高い音でキラキラしたフレーズが多かったが、ここに来てクローズドなコードや低めのオクターブになるところとか、"遠くで光っていた星"という概念が、"星座になりたい"という歌詞とともに、自分(達)の手元に来て、地に足付いたような印象を受ける。
ぼっちのギターは喜多ちゃんのバッキングの中で抜けた低い三度や、高い基音の隙間に絡めて縫うようなフレーズになっている。これによって一気に音が厚くなり、展開が熱くなる。
ぼっちの音が喜多ちゃんの音に包まれながら、上に行ったり下に行ったり……胸熱展開……
83小節目、後藤の音に着目してみると、またもやぼっちのギターと歌詞がリンクする。「つないだ線」で1度-7度-6度と離れた音が縦の線で繋がり、「解かないよ」でグッと音が近づいて結びつける。五線譜に書き起こすことで可視化されるとか、どういう発想だよ……ちょっとトップノートが離れているのもなんかぼっちらしくて良い。
そして最後のキメ。喜多ちゃんのコードがこれまでE♭sus4(7)だったところに、1-5弦6フレットの全押さえという思い切った後藤の音が入ることで、E♭sus4(7,9)になる。これがまた喜多ちゃんのコードとぼっちのコードが見事に絡み合って良いんだ……(ただし譜面は見づらくなる)
ちなみにE♭sus4(7,9)といえば冒頭のキタ~ンと同じ構成なんですよ……
そして 2:45、「君がどんなに眩しくても」のところの喜多ちゃんの表情が好きすぎる……皆見て……
最後の歌い上げで高まる中、"後藤さんは凄くかっこいい"を"皆に見せられた"って思いもあるだろうし、ライブのあとにひとりちゃんを見つめて決心するのは「――貴方を支えられるような 立派なギタリストになるわね」。
はい。いい感じに焼けていた脳が丸焦げになりました。
アウトロ(2:49)
イントロと同じフレーズに戻って来ながら後半虹夏のドラムのパターンが変わっていて、8分でハイハットのオープンが繰り返されることで、"終わってしまう"という寂しさと切なさがこみ上げる……
ベースのフレーズもイントロと変わっている。挑戦的だったイントロに対して、全体を包み込むようなアウトロのベースライン。ここまでオシャレでイケイケな16ビートを締めくくるのに、ドラムも派手に決めるわけではなく、フロアタムでベースの低音と締めるのもかっこいい。
そして最後のリードギターがE♭→A♭→B♭→Cと3rdで終わるのが儚さがあって良い。喜多ちゃんの弾くA♭M7がちゃんと伸びているからこそできる最後の音の広がりだと思う。朝焼けを感じるシメだと思った。それで12話のサブタイトルの"朝が降る"の印象が強く残る。
音楽的にはかなり目立つベースとドラムだったけど、物語として"ぼっち"と"郁代"に花を持たせる構成になっているのが良い……
余談
最初アニメを12話見終えたとき、最初は「なんかうまくハマれなかったな……」と思っていたのですが、星座になれたらの演奏シーン(特に喜多ちゃんの表情)と楽曲そのものがふと頭の中でリフレインして、「公式動画も上がっているし、もう一回見てみよう」と思ったときにはすっかりハマっていました。
今思えばこのぼざろ沼にハマるまいとした防御本能だったのかも知れません……。
それだけ『ぼっち・ざ・ろっく』と『星座になれたら』は自分の中で唯一無二の存在です。また、アニソンって良いなと改めて思ったり、これまで遠い存在だと思っていたロックという概念にも興味が湧いてきました。
ぼっち・ざ・ろっくの楽曲(特に劇中歌)は、音だけでなく、アニメーションで描かれている部分も多くて音が採りやすい!……なんてことはなくて、かなり苦戦しました。
特に、私はギターを弾いてこなかったので、指板で構成される音の感覚が新鮮でした。後藤パートについては三井さんの弾いてみた動画
が非常に参考になりました……
もちろん映像がサポートしてくれる部分は大きかったけど、それ以上に彼女たちの演奏と耳との辻褄合わせが難しい…… でもその分解釈が深まって良かった。
三井さんを始めとする結束バンドの"音"の人たちの演奏と、モーションアクターさんたちの"骨"の人たち、アニメとして抜き出されていない部分も見たい……
設定資料集以上に難しいものがありそうだけど、アニプレさん、映像化してくれませんかね……
「結束バンドLIVE-恒星-」も、色んな視点からの映像が見たいので円盤化お願いします……!!!
ご興味あればこんな感じで「あのバンド」の解説や「青い春と西の空」の楽器の掛け合いをまとめてみたので見てください。
……あと念のため私のTwitter→@isoguinchuck
*1:アニメ映像だとスラップで演奏しているが、レコーディングではピックでスラップ"風"に弾いているとのこと
*2:ドミソの和音の上にシ・レなどの5度上の音を積み上げることで、音の濁りを強めずにオシャレな緊張感を持たせるテンションコード
*3:アニメ映像だとスラップで演奏しているが、レコーディングではピックでスラップ"風"に弾いているとのこと
*4:ギターの音色を変えるエフェクターの一種。バンドパスフィルターで強調される周波数帯を上下に変化させることで「ワウワウ」した音になる
*5:コードを押さえるときに人差し指などで指板全体を抑える奏法
*6:ハイハットのペダルはこのとき緩める必要があるので、バスドラを踏むペダルと左右で操作が逆になる。他のフレーズではバスドラの直前に左右同時に上げる事が多いので、意識的にこれがさっとできるのがカッコいい
*7:今回のDm7(-5)はD(根音)-F(短三度)-A♭(短三度)-C(長三度)で構成されており、全て短三度の関係になるディミニッシュ(7th)に対して"ハーフ"と呼ばれる。
*8:指板とヘッドの間、ギター0フレットの位置に相当
*9:注: 先述の通り、半音下げチューニングを前提としているのでレギュラーチューニングのギターを持っている人は-1で考えてほしい
*10:Edim7 on Emと示すべきかもしれない
*11:喜多ちゃんの指をスローモーションで見るために0.25倍速にしてシャクリの音程に初めて気づいた
*12:半白3連+1打。「タタトドン」がそう聞こえる人が呼ぶ
*13:筆者は2度下に平行移動するコード進行について、オートマ車のアクセルを踏み込みむとギアを下げて推進力が得られることに倣って"キックダウン"と呼んでいる