(Lite版) ぼっち・ざ・ろっく!劇中歌「星座になれたら」を採譜して細かく語ってみた
「星座になれたら」LIVE at 秀華祭 を採譜してみました。
採譜をしてきた「星座になれたら」のシリーズですが、5記事分と長くなって読みづらいと思うので、結束バンドの関係性や物語との絡みを中心に再編してみました。
ちなみに完全(?)版はこちら↓
- イントロ (0:00)
- Aメロ(0:21)
- Bメロ(0:38)
- サビ(0:54)
- 喜多ちゃんのアドリブ(1:25)
- ぼっちのアドリブ(1:38)
- ブリッジ(1:57)
- ラスサビ(2:17)
- アウトロ(2:49)
- 余談
イントロ (0:00)
1小節目の頭に全員でジャン!と一発合わせたと思ったらリョウのスラップ*1が始まる……それに被せるようにぼっちのフレーズが追いかける。
そしてまた全員で付点のリズムを刻み、「キタ~ン」を経由して虹夏の三連符という流れになっており、このたった2小節の間に、4人全員の見せ場を作って畳み掛けている。
再スタートされたイントロのフレーズではメロディアスなスラップとそれに呼応する虹夏のドラム。2拍目の頭のスネアがベースの休符に入り込む感じ、リョ虹の呼吸を感じる……
「星座になれたら」において、虹夏が刻む16ビートのスネアの位置が良く裏裏に入るけど、2つ打ちをせずにシングルストロークで叩いているの、"音がでけー"のが気に入った虹夏らしい。
5小節目から入ってくるのはぼっちのワウペダル!*2
虹夏の16ビートの下を支える4分音符と同じタイミングで踏まれていて、今度はぼ虹の呼吸を感じる……
このイントロだけでも、「星座になれたら」には喜多ちゃんの頑張りとリョウの「コレもいけるか」ってラインのせめぎあいがたくさん見受けられて、バンド練習後のリョウ喜多レッスンの内容の妄想が膨らむ。
私が一押しなのは、後藤の最後の音がE♭になっていて、この後9th(E♭)で歌い出しをする喜多ちゃんのエスコートを感じる。
Aメロ(0:21)
後藤さんにエスコートされた、D♭M9の9thノート、E♭からの歌いだし。それを支えるのは裏裏の効いたリョ虹の16ビート。ここの虹夏のバスドラが裏裏で入るのがカッコいい。
聴き逃がせ無いのが14小節目の喜多ちゃんのスライド。後藤が曲中によく使う、スライドを使ったフレーズを喜多ちゃんが弾くってのが熱い。こういう技も後藤さんに教えてもらって、いっぱい練習したんだろうな……
そして19小節目で、ぼっちのフレーズと喜多ちゃんのアルペジオが合流している! こういうふとした瞬間に合流するフレーズ好き。
ドラムが同じフレーズ続けないだけでなく、Aメロにおいて奇数小節目のパターンが全部違っているところとか、"音がでけー"だけじゃない、大きくなった虹夏のドラムに対する造詣の深さがうかがえる。
Bメロ(0:38)
喜多ちゃんの歌とギターがゆったりするところで、せわしなく動くぼっちの歯切れのいい16分のフレーズ。リョウのベースはその裏で2度上昇。結束バンドの楽曲で全体的に表されている焦燥感が滲み出る。
「いいや 僕は ずっと一人きりさ」のカギ括弧……! ここは歌詞考察が深まるポイント。なげやりになった「いいや」なのか、全文を否定する「いいや」なのか…… ぼっちの作詞・喜多ちゃん歌唱のどっちに重きをおいても、もしくはこの両方にこだわっても可能性が満ちている。韻踏み・対比・解釈の幅を一気に持ってくるフレーズを編み出す樋口愛さん天才……
サビ(0:54)
ここからリョウのコーラスが合流。
そして物語が大きく動く、ぼっちのギターの1弦が切れるシーン。
原作(単行本2巻p62, 3コマ目)ではネックの部分に集中線があり、ナット*3の部分から1弦が切れていたが、アニメではピッキングした位置からに変更されている。芸が細かい。
原作を解釈すると、チューニングが合わない→低くなっている場合はフレットを抑える力を強く、高くなっている場合はブリッジ側に押さえて引っ張りながらチューニングを合わせることで、ナットにかかる負荷が強くなってしまう。特にチューニングで擦れたりなどの負荷が大きいナットの部分から弦が切れてしまう。
一方アニメではフレットを握る際に「ピキッ」という音が聞こえる、2弦のペグも故障している、などの部分は原作を踏襲しつつ、演奏シーン後半の"映え"の演出のために変更されていると思われる。この部分は記事後半で取り上げたいと思う。
そして私を悩ませた31小節目のコード進行。話すと長くなってしまうので、気になったらこちらを見てほしい。まとめると、喜多ちゃんはただ半音下がっていくだけでなく、小指を活用してハイノートを弾いている。元は簡単なバッキングだったが、リョウ喜多レッスンの過程で、簡単な進行から、より挑戦的なこだわりを追加していったとも解釈できる。
ここで喜多ちゃんがぼっちの異変に気づいて横に向くシーン、ここだけで喜多ちゃんの成長を強く感じる。8話の「あのバンド」のときはそのまま首を回していたので、喉が締まったり、マイクからオフってしまっていた。
しかし、12話「星座になれたら」のときには自分が半歩右前に出て、マイクからオフらないように後藤さんを覗いている。
こういう細かい所作にもこだわりが感じられる……いっぱい見て! →(1:04~)
ちなみに原作では喜多ちゃんが弦が切れたことに気づくカットインが入ります。
41小節目の歌詞は「解かないで」である。Cm7にしがみつく-13th(A♭)の姿と非常にマッチしている。回転コードを使えばA♭M9からA♭がルートから転がり落ちたと解釈することもできる……転がるぼっち!?!?!?
42小節目では喜多ちゃんがまっすぐ前を向くカットが入る(1:23)。後藤さんの異変に気づいて、本番中20秒弱の間に巡った喜多ちゃんの思考が、この瞬間に決心に変わっている……
個人的に好きなのがサビのドラムのパターン。基本的に裏拍でハイハットのオープンをしているのだが、2,4拍目の頭にクローズの音が入っていたり、4拍目に「タツツー」と二回打ちしていたり、徹頭徹尾気を抜かないフレーズを叩いているし、作画されている。演奏している比田井さん・モーションを作る平川さん・アニメに描き起こす作画の皆さんの「虹夏のドラム」への解像度が高い……
喜多ちゃんのアドリブ(1:25)
ぼっちが直面したギターの故障に対処できないままソロパートに突入。そこで機転を利かせたのは喜多郁代。この構図はアニメ8話でぼっちが魅せた「あのバンド」冒頭のアドリブにおける演出に対応していると思う。
流れとしては、パワーコードから1,2弦の開放弦を使ったローフレットに移動。急にローフレットに持っていこうと思いつくのはすごい。開放弦の厚みのある音がなることで、会場は喜多ちゃんのギターに視線が移動する。開放弦でエンジンを掛けた喜多ちゃんがオクターブ奏法を使ったアドリブに突入する。
なにげにすごいのがリョウもここで予定(CD版)とは違うフレーズを弾いている。CD版ではパワーコードを弾く喜多ちゃんの分、高い音のアソビを入れたフレーズが多い一方で、喜多ちゃんのアドリブに反応してアソビの少ないベースラインを弾いている。
表に立って場を繋ぎながら、ぼっちを引っ張る喜多ちゃんだけでなく、それを支えるリョウのベースと、冷静に次の判断を待つ虹夏のドラム。三者三様の結束力が光る。
50小節目のG♭。このコードのリズムギターが高い音のアルペジオになっているのも、ここまでのオクターブ奏法との切り替えを感じるし、踏み込んだコードの上でより一層の輝きを放っている。
ここでのセリフが「皆に見せてよ 本当は…後藤さんはすごくかっこいいんだってところ!」。まぶしすぎる……!!!
喜多ちゃんの"かっこいい"後藤さんへ寄せる期待と信頼が溢れていて、ここまで上手くなった説得力もちゃんとあるのがいい。
……ここで唸りを上げる後藤さんのギター。
ぼっちのアドリブ(1:38)
ぶっつけ本番のボトルネック奏法でのアドリブ。フレーズを考えるだけでなく、チューニングを合わせながら弾けるのすごい……
ぼっちがギターを練習してきた3年間に培われた物が発揮されている感じ、とても良い……
そいち様がこのシーンを詳しく説明されていますので、ご一読を……
【あのシーンを語りたい】あの文化祭ライブの回ですが、これが分かるとあのシーンをもっと深く味わえるというのを僕なりに語らせて下さいお願いします
— そいち (@soichi1111) 2023年2月12日
さあ、あの3分間に何が起こっていたのか、見ていこうじゃないか(何者だ)
↓公式動画参照
#ぼっち・ざ・ろっく https://t.co/Q7e5X0vH7i pic.twitter.com/iQIT2nCBVu
そして切れた弦がネックから下がって揺れながら、光を反射して光る。これはアニメーションになったときに映えるように考えられた変更だろう。(喜多ちゃん! これも映えですよ! 映え!)
実際にアニメーションにすることを考えると足元にブリッジからぶら下がった弦がきてしまう。それを映そうすると画角を広く取らなければいけない。また、スカートのプリーツもあるので恐らくわかりにくくなるというのもあるのかもしれない。
フィクションとリアルを両方追求することで、説得力と臨場感のある演出が出来上がる。これこそがぼっち・ざ・ろっく!の真骨頂だと思う。
ブリッジ(1:57)
このブリッジの構成が素晴らしすぎる……詳しくはこっちも見て→Long版, ブリッジ
ここでとにかく推したいのは、ギターの8分音符の音程。
「何度も出会ってしまうよ」の文字通り、ギターの音の関係が 2度のぶつかり→重なり→離れて→2度→重なる……と後藤と喜多の音が隣に来たり重なったり離れたり……
TAB譜じゃ見えない音符の関係。ここの音にもぼ喜多が詰まってる……
そして69小節目、この流れで弾かれる後藤のオクターブ奏法は喜多のアドリブへの意匠返しを感じる。
ラスサビ(2:17)
全員のキメから一転、ギタボの喜多ちゃんと虹夏だけの時間がやってくる。
ここのギターのミュート5度とか、ぼっちが演奏しててもいいと思うんだけど、アドリブと最高に盛り上がるブリッジを終えたあと、一度深呼吸を入れるという演出を入れるというのが良い。
逆に静かサビでもずっと弾き続ける喜多ちゃんすごい…… セッションとしては、喜多ちゃんのリズムが崩れないようにという配慮なのかもしれない。
そして77小節目、満を持してぼっちの合流。
喜多ちゃんのハイノートは上に抜けてからA♭まで下降、ぼっちはローフレットのアルペジオからハイノートのオクターブスライドへ…… ……ギター二人の対位法だ!!!!!
ここからぼ喜多のギターが組んず解れつを始める。
これまで高い音でキラキラしたフレーズが多かったが、ここに来てクローズドなコードや低めのオクターブになるところとか、"遠くで光っていた星"という概念が、"星座になりたい"という歌詞とともに、自分(達)の手元に来て、地に足付いたような印象を受ける。
ぼっちのギターは喜多ちゃんのバッキングの中で抜けた低い三度や、高い基音の隙間に絡めて縫うようなフレーズになっている。これによって一気に音が厚くなり、展開が熱くなる。
ぼっちの音が喜多ちゃんの音に包まれながら、上に行ったり下に行ったり……胸熱展開……
83小節目、後藤の音に着目してみると、またもやぼっちのギターと歌詞がリンクする。「つないだ線」で1度-7度-6度と離れた音が縦の線で繋がり、「解かないよ」でグッと音が近づいて結びつける。五線譜に書き起こすことで可視化されるとか、どういう発想だよ……ちょっとトップノートが離れているのもなんかぼっちらしくて良い。
そして 2:45、「君がどんなに眩しくても」のところの喜多ちゃんの表情が好きすぎる……皆見て……
最後の歌い上げで高まる中、"後藤さんは凄くかっこいい"を"皆に見せられた"って思いもあるだろうし、ライブのあとにひとりちゃんを見つめて決心するのは「――貴方を支えられるような 立派なギタリストになるわね」。
はい。いい感じに焼けていた脳が丸焦げになりました。
アウトロ(2:49)
最後の最後、ベースのフレーズもイントロと変わっている。挑戦的なイントロに対して、全体を包み込むようなアウトロのベースライン。ここまでオシャレでイケイケな16ビートを締めくくるのに、ドラムも派手に決めるわけではなく、フロアタムでベースの低音と締めるのもかっこいい。
音楽的にはかなり目立つベースとドラムだったけど、物語として"ぼっち"と"郁代"に花を持たせる構成になっているのが良い……
余談
「ぼっちのボトルネック奏法がすごい!」というわかりやすいテーマに対して、その周りを最高の演出とストーリーで固めており、"アニソン"として最強の楽曲であると思っている。
きっとこの裏には、こんなおしゃれな「鍵盤のシティポップ」の楽曲を「女子高生が演奏する」「下北沢のロックバンドが演奏する」「リズムギターは初心者」を1曲に押し込めるという無理難題(?)があったわけで、ここらへんの苦悩とか、どういうアイディアで編曲していったのかとか、いろいろ知りたい……
原作音楽監修のInstantさんのYoutubeチャンネルや、これから出版されるガイドブックなど、いろいろ話が聞けるといいな。あとバンドスコアでじっくり答え合わせしたい。
今後については、もうちょっとだけ続くんじゃ。
今回端折った話についても、違いに気づいた所等を過去5回分まとめて1つの記事にしようと思っています。(URLいっぱいあると見づらいからね)
→書きました
(Long版) ぼっち・ざ・ろっく!劇中歌「星座になれたら」を採譜して細かく語ってみた - おくち・を・ちゃっく! (しない)
また、これは2期への希望なんじゃないかと思った「光の中へ」のアウトロについてもあれこれ書きたいと思います。
ご興味あればこんな感じで「あのバンド」の解説や「青い春と西の空」の楽器の掛け合いをまとめてみたので見てください。
……あと念のため私のTwitter→@isoguinchuck