【ぼっち・ざ・ろっく!劇中歌「星座になれたら」】を採譜して細かく感想を入れてみた 3. サビ
「星座になれたら」LIVE at 秀華祭 を採譜してみました。
part1はこちら↓
「星座になれたら」を採譜して細かく感想を入れてみた 1.イントロ - おくち・を・ちゃっく! (しない)
サビ (0:53~)
28小節目
ここからリョウのコーラスが合流。
メロディはここまでのアッパーストラクチャに対して低い位置……だが、ぼっちのギターがE♭,B♭,A♭,E♭を奏でている(謎の安心感)。
29小節目
リョウは三度下のハモリから四度下のハモリに移動。星座になれたらのコーラスのラインはすごく優しい感じがして好き。
30小節目
ぼっちの1弦が切れるシーン。
原作(単行本2巻p62, 3コマ目)ではネックの部分に集中線があり、ナット*1の部分から1弦が切れていたが、アニメではピッキングした位置からに変更されている。芸が細かい。
原作を解釈すると、チューニングが合わない→低くなっている場合はフレットを抑える力を強く、高くなっている場合はブリッジ側に押さえて引っ張りながらチューニングを合わせることで、ナットにかかる負荷が強くなってしまう。特にチューニングで擦れたりなどの負荷が大きいナットの部分から弦が切れてしまう。
一方アニメではフレットを握る際に「ピキッ」という音が聞こえる、2弦のペグも故障している、などの部分は原作を踏襲しつつ、演奏シーン後半の"映え"の演出のために変更されていると思われる。この部分はまた後ほど取り上げたいと思う。
個人的に好きなのがサビのドラムのパターン。
基本的に裏拍でハイハットのオープンをしているのだが、2,4拍目の頭にクローズの音が入っていたり、4拍目に「タツツー」と二回打ちしていたり、徹頭徹尾気を抜かないフレーズを叩いているし、作画されている。演奏している比田井さん・モーションを作る平川さん・アニメに描き起こす作画の皆さんの「虹夏のドラム」への解像度が高い……
31小節目 (コード採譜最難関……)
もう一度この部分の音を1段にまとめたものを見てほしい。
コード取りの都合上、CD版の演奏(サビ及びラスサビ)のリードギターの音も重ねているが、伴奏とメロとハモリが整合するコードを表すのが難しすぎる……
ベースの上で鳴るメロディーの音とリードギターの音を合わせてみると、コード進行はFm7(11)→Edim7→E♭m7(11,13)→A♭。
冷静にLIVE映像(1:00~)を見てみると*2、喜多ちゃんの動きはマイナー7th型で基音をF→E→E♭に移動しているように見えるが、特徴的なのは小指の動きである。位置は12→11→9→7フレット。私はこれに長らく悩まされた……(というかこれであっているのか未だに不安)
音を聞きながら考えてみると、この小指の位置は、5弦→浮かせる→6弦→浮かせると解釈した。そしてこれをなぞると2拍目はDの音が聞こえない(恐らくこの部分では4弦をミュートしている)のでEmのパワーコードを弾いている……!?!?!?!?!?!
すなわち鳴っている音は下から E, G, B, G, B♭, D♭。Edim7 on Emとも呼ぶべきコードである*3。極めつけは3拍目の直前、喜多ちゃんがCの直前にシャクリを入れているのはBの音……*4
そして1, 3拍目の小指が押さえる音がいい仕事している……テクいぜ、郁代。
たくさんの人のTAB譜やコード譜を参考に見ながら、ずっと腑に落ちなかった部分なので、自分の中で結論が出せて満足。
正直Fm7→Em7→E♭m7は確かに弾きやすいんだけど、歌と喜多ちゃんの小指を見過ごすのは勿体ない……
逆に考えると、リョウ喜多レッスンの過程で、簡単な進行から、より挑戦的なこだわりを追加していったとも解釈できる。三井さん、akkinさんを始めとする制作陣の皆さんのこだわりを感じる……
32小節目
サビ後半の進行を見るとB♭m7系でも良さそうなところだが、ベースがD♭に行くのでD♭M7(13)。メロディーがB♭なのもD♭のベースの上に乗っかることで強調されるアッパーストラクチャのきらめきなのだ……
33小節目
ここで喜多ちゃんがぼっちの異変に気づいて横に向くシーン、ここだけで喜多ちゃんの成長を強く感じる。
8話の「あのバンド」のときはそのまま首を回していたので、喉が締まったり、マイクからオフってしまっていた。
しかし、12話「星座になれたら」のときには自分が半歩右前に出て、マイクからオフらないように後藤さんを覗いている。
こういう細かい所作にもこだわりが感じられる……
いっぱい見て……! →(1:04~)
34小節目
Cm7→Edim7→Fm7……!!!!!!!!!!!!!
ベースの長三度→半音の上がり方がすごくエモーショナルで好き。
サビ前にも出てきたD♭M7→Dm7(-5)→E♭の流れと対になる進行で、寂しさ・優しさ・不安感だけでなく、力強さを表現できるんだ、ディミニッシュとハーフディミニッシュに対する考え方が改まったシーンである。
35小節目
通称スケベ丼*5再び。
34小節目、みんながキメのリズムを弾く中、我慢して我慢して、ここで開放されるタムのフィルがいい……
A♭のときにリズムギターから高いE♭の音が聞こえて、CD版含めて何度も聞き直したけど、これは幻じゃない。かと言ってこの動きの中でそんなハイトーンを押さえているとは思えなかった。
これを解釈するなら、1,2弦の3倍音(B♭, E♭)の位置でピックングハーモニクス*6をやっているのではないかと。これを盛り込んでいるTAB譜もあまりない気がする。
36小節目
ステージでしゃがむぼっちにピントが合いながらも手前に写る喜多ちゃん(とリョウのマイクスタンド?)。
3人はどんな面持ちで演奏していたのだろうか……顔が見えないからこそ想像が膨らむ。
ちなみに原作では喜多ちゃんが弦が切れたことに気づくカットインが入ります。
40小節目
ここでサビ前半とは異なるコード進行が来ることで"区切り"が近づいたことが表されている。
しかもここまでテンションキメキメのコード進行だったのに、B♭m7*7。
メロディが乗っかる風向きが変わっている。
41小節目
メロディが変わらないのに2度上がるベースとリズムギター。これが前のB♭m7から続くことで焦燥感を感じる。
そして歌詞は「解かないで」である。Cm7にしがみつく-13th(A♭)の姿*8と非常にマッチしている。
42小節目
D♭M7→Dm7(-5)→E♭7(11) キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ン!!
ここの進行が好きすぎてこのシーンのギターばっかり弾いちゃう。それぐらい聞いていて・弾いていて気持ちがいい。好き。
サビ前と違って、解決を1.5拍伸ばすところとかも好き。
ドラムのフィルもシンプルなリズムの組み合わせなんだけど、むしろそれがいいまである。好き。
ここで喜多ちゃんがまっすぐ前を向くカットが入る(1:23)。後藤さんの異変に気づいて、本番中20秒弱の間に巡った喜多ちゃんの思考が、この瞬間に決心に変わっている……
余談
今回は演出の解説(?)と感想が多くなりました。
イントロ・Aメロ・Bメロで音楽を聴かせて、サビでドラマを作る。
アニメーションを構成する各パーツが良いのはもちろん、その構築に脱帽です……
↓Part 4↓
*1:ギター0フレットの位置に相当
*2:執筆時の2023/2/18現在、小さいがこの部分に再生回数の山が見える。みんな苦労しているのか、私がここで何度も再生し直したからなのか……?
*3:起こした譜面では低音の和声を尊重しEm(+11,13)とした
*4:0.25倍速にして初めて気づきました
*5:半白3連+1打。「タタトドン」がそう聞こえる人が呼ぶ
*6:右手のピックで弦を弾く瞬間に、押さえたフレットの位置とブリッジの間が整数比になるよう場所を親指で触れることで高い倍音を目立たせる奏法。今回を例に取ると、フレット側:ブリッジ側=2:1とすることで、元の音の3倍の周波数=5度の音が出せる
*8:回転コードを使えばA♭M9からA♭がルートから転がり落ちたと解釈することもできる……転がるぼっち!?!?!?